ブラジル人にとってもW杯は特別…あの時まではカナリアで染まっていた


街中を歩くだけでよくわかる。やっぱり、ブラジル人にとってもワールドカップは特別だ。



何しろ、いたるところでカナリア色がとにかく目に付く。街や店舗の装飾はもちろんだが、街行く人々は代表ユニフォームをはじめ、カナリアカラーの衣服を着用していることが非常に多い。大会期間中、ブラジル戦がない日でもとにかく頻繁にカナリア色を目にする。







ちなみに、昨年に行われたコンフェデレーションズカップの時は違った。



ユニフォームを着用している人々は、1年前も確かに多かった。ところが、その大半はカナリアイエローではなく、愛する地元クラブのユニフォーム。リオデジャネイロならフラメンゴ、サンパウロならコリンチャンス、ベロオリゾンテならばアトレチコ・ミネイロやクルゼイロといった具合である。ところが、今回はリオでもサンパウロでもベロオリゾンテでも、目に飛び込んでくるのは一にも二にもカナリアイエロー。普段はクラブを愛してやまない人々も、やはりワールドカップとなれば、セレソンを応援してしまうのだろう。



当然ながらブラジル戦当日ともなれば、より盛り上がることは言うまでもない。代表ユニフォームの着用率はさらに高まり、試合会場の都市は休日と化す。街中のほとんどの店舗は閉まり、シャッターの貼り紙には休業時間が記されている場合が多い。平日でも、一切お構いなし。銀行はもちろんATMも開いていないことで、両替や現金を引き出すことに苦労するほどである。







ただ、何事にも例外はある。昨日まで多くの人々が行き交っていた繁華街が、シャッター街かと見間違うほど人の往来は少なくなるが、その分数少ない開店業種である飲食店に人々が集中するのだ。大挙するという言葉が適切なほど、人々が店舗に押し寄せて杯を重ね、気炎を上げる。人々は外まで溢れ、店がカナリア一色に染まる様子はまさに圧巻。店舗のテレビで観戦する人々はそこからアルコールがさらに進み、現地観戦する人々はアルゼンチンとマラドーナを大声で茶化しながらスタジアムに向かう。



まさに、国中が熱に浮かされているような状態だが、冷めるのも早かった。準決勝のドイツ戦で1−7と叩き潰された翌日、テレビでは解説者やコメンテーターがしきりに試合を検証していた。ところが、街中からは昨日までとは打って変わり。あれほど溢れていたカナリアイエローは途端に消え去り、余韻も何もあったものではない。その移り身の早さには、少なからずビックリする。



それでも、取って代わったのは、やはりというかサッカーであった。ドイツ戦の惨劇の地となったベロオリゾンテでは一夜明け、街中でネイマールのネームが入った代表ユニフォームを見ることはなくなった。おそらく日常の戻った街で目に入ってきたのは、地元クラブのユニフォーム。ロナウジーニョと記されたアトレチコ・ミネイロの縦縞だった。









【プロフィール】
小谷紘友(おたに・こうすけ)
1987年、千葉県生まれ。学生時代から筆を執り、この1年間は日本代表の密着取材を続けてきた。尊敬する人物は、アルゼンチンのユースホステルで偶然出会ったカメラマンの六川則夫氏。

《 現地発!海外記者コラム一覧